ブログ

証拠があっても追い詰めてはいけない

※写真はイメージです

 

気がつけばもう10月になってしまい、2017年も終わりに近づいていますね。
年々、一年が過ぎるのが早く感じます。

さて今回の「勝手に言わせてくれ」は、弊社に依頼のあった事件を紹介しながら、民間鑑定ならではの証拠の使い方をご紹介します。

 

ある日、貿易船の運営会社の方から弊社に指紋鑑定依頼のお電話をいただきました。案件の内容は、貿易船の中で乗組員のお金が盗まれてしまいました。財布は、乗組員のロッカーの棚に置いてあり、その中からお金だけが盗まれたようです。

乗組員は全部で11人です。貿易船は航海中でしたので、人の出入りは絶対にありません。つまり、乗組員11名の中に犯人は必ずいます。

 

船長は乗組員全員を信じていたので、このような事件が起こってしまい、大変ショックだったそうです。また、船の職場は限られた空間で同僚が仕事をしなければならないので、信頼関係は非常に重要だそうです。そのため、このような事件を放置しておくと、乗組員の間で人を疑うようになってしまい、職場環境が悪くなるため、解決したいと船長は考えました。

船長は、乗組員全員にこの事件をなんとして解決したいと思いを伝えて、みんなから指紋を提供してもらう事をお願いしました。

 

我々が電話をいただいた時、船はまだ航海中でした。明日に日本に着くのですぐに財布があったロッカーから指紋を検出し、乗組員全員から指紋を押捺して照合してほしいとの依頼でした。

早速、我々は港へ向かい、ご依頼どおり財布が保管されていたロッカーとその周辺から指紋を検出しました。ロッカーの中から多くの指紋が検出されましたが、ほとんどが被害者の指紋でした。そんな中、被害者ではない指紋が発見されました。状況から考えて、この指紋が犯人の指紋です。

 

次に、乗組員11名の指紋も一人一人押捺しました。その時、様子のおかしい乗組員が一人しました。指紋を押す時の手は震え、顔は赤くなり、「この指紋は最後に返してもらえるのか?」「どうやって指紋を照合するのか?」など、むやみに質問をしてきました。

 

その後、会社に帰り、被害者のロッカー内から検出した指紋を照合したところ、やはり様子がおかしかった乗組員と一致しました。

我々は、この結果を船長に伝えると、船長は「この結果を基に本人に問いただしてみる」と言っていました。

しかし、我々は本人に結果を伝えるのは慎重にやるべきだと伝えました。なぜなら、警察ならば国家権力という大きな力をもっていて、証拠があれば、本人の意思とは関係なく逮捕できますが、これはあくまで民間で起きた案件です。本人が追い詰められて、開き直り罪を認めなければ、最悪の場合、裁判まで発展しないと事件が解決しません。

しかも、我々が指紋を押捺している様子を見ると、本人はかなり恐怖を覚えていたので、本人に問いただす前に自ら名乗り出る機会をあたえれば、罪を認めて名乗り出るかもしれないと提案しました。

 

我々の提案どおり、船長はみんなの前で名乗りでてほしいと、思いを伝えました。すると、その夜に電話で「自分がやりました」と名乗りでたそうです。

電話で話し合った結果、本人もかなり反省していた様子でしたので、今回は厳重注意で収まったようです。

 

電話を切った次の日に、船長は再び乗組員全員を集合させると、犯人が名乗り出た事をみんなに伝えました。もちろん、職場の人間関係が悪くなるので、犯人の名前は公表していません。

今後、船の中で窃盗は起こらないから安心して働いてほしいと船長が伝えると、乗組員のみんなは犯人がだれかわかっている様な感じでした。しかし、勇気をもって名乗りでたので、許しているような雰囲気だったそうです。

こうして、元の良い職場環境に戻ってくれたようです。

齋藤鑑識証明研究所
齋藤 健吾