○パリ同時多発テロ
2015年11月13日夜、パリ市内で同時多発テロが発生し、世界から一斉に注目された。
最大の犠牲者を出したコンサートホールでは、立てこもった犯人3人が射殺され、その2日後、犯人の一人は「指紋から身元が特定された」(2015.11.16朝日新聞)と報じられた。
この記事を見たとき、テロの混乱の中、犯人の指紋を採取し、照合していた警察鑑識の素早さに驚いた。
事件捜査の出発は、誰の犯行かという“身元確認”であり、スピードが求められる。
犯人の遺体を確保した警察では、直ちに検視場所へ指紋採取道具を持ち込み、指にインクを付けて押捺し、死体指紋を採取している。
今回のように新しい死体でも、死後2~3時間で硬直が始まり、約12時間で末端の関節に及ぶため、指紋採取といっても簡単ではない。やはり、現場では鑑識専務員の俊敏な活動がうかがえる。
採取された死体指紋原紙は、パリ警視庁で直ちに前科者指紋データとコンピュータ照合され、前科者にヒットしたようだ。
テロ集団のデータは、国際刑事警察機構から特別手配で世界の主な警察が共有しているから2日以内で結果が出せたのだろう。
これらの活動からすると、発見された逃走車両、銃器、アジトからも徹底した指紋採取活動が行われ、犯人の犯行以前の行動も指紋からも特定していることがうかがえる。こうした捜査が、首謀者・共犯者の究明つながるのだ。
○新潟 小学2年生女児殺害事件
2018年5月7日、新潟県で小学校2年生の女の子が殺され、遺体を線路に遺棄された事件が世間を騒がせました。まだあどけなさの残る女の子に対する卑劣な犯行に衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか。
可愛い盛りの女の子を殺した上に、偽装工作なのか、証拠隠滅のためなのか、遺体を電車に轢かせるという恐ろしい所業に怒りがこみ上げました。
突然、大切な子供を奪われた挙句、その遺体までもが無残にも傷つけられてしまうなんて…。ご家族の気持ちを考えると胸が痛みます。
そして、懸命な捜査の結果、本日の午前中の速報で重要参考人の20代の男性から事情を聴いていると発表がありました。
まだ犯人と断定したわけではありませんが、捜査に進展があったことは喜ばしいですね。
今回の事件で、線路やランドセルに家族以外の指紋が見つかったとニュースで報道されました。
家族以外の指紋ということで、犯人の指紋の可能性があるものですが、このように指紋が見つかった場合、警察はどのように捜査を進めていくかを少し説明したいと思います。
まず、見つかった指紋と保管されている前科者の指紋を照合します。そこで適合すれば犯人が確定となりますが、適合しなかった場合は前科がない人の指紋ということになります。
前科者の指紋との照合は事件発生から2日程度で終わります。今回は、事件発生から重要参考人を特定するまでに1週間が経過していましたので、前科者ではなかったと思います。
そして次の捜査は、近所へ聞き込み等を重ねて素行の悪い人や事件当時のアリバイがない怪しい人の指紋を提供してもらって照合をしていくのです。
今回の事件は何が決め手で重要参考人となったのかはまだ分かっていませんが、指紋が重要な証拠となることでしょう。
この非道な事件が一刻も早く解決するように祈っています。
○川崎市殺傷事件
2019年5月28日朝、川崎市多摩区登戸駅付近において通学の為にスクールバスを待っていた私立小学校の児童と保護者が襲撃されるという痛ましい事件がありました。
この川崎殺傷事件は、通学路の安全確保の問題、更には容疑者の生い立ちなどから、「引きこもり」や「不登校」、「8050問題」にまで派生し、世論が巻き起こるといった様相を呈しています。
犯行の直後に自らの首を刺し、搬送先の病院で死亡が確認された容疑者は、一体どのようにして身元の割り出しが行われたのでしょうか。
一般的に個人を識別する方法として、【形式的識別法】と【実体的識別法】があります。
【形式的識別法】は、戸籍や身分証明書(運転免許証、マイナンバー、パスポート)等で個人を識別する方法です。
一方、【実体的識別法】は、本人から取り外せないものによって個人を識別する方法であり、指紋、歯形、顔写真、DNA、筆跡、声紋、等があります。
なかでも、指紋は絶対的な識別法として世界各国で採用され、犯罪捜査の分野のみならず、出入国や重要建造物への入室チェック等幅広い分野で大きな役割を果たしています。
さて、今回の容疑者の男は、多数の目撃情報と所持していたとされる保険証から、形式的な本人確認は直ぐに可能であったと推測されますが、報道によると、容疑者の遺体の指紋と、容疑者の住む家に付着していた指紋とを照合し、最終的な容疑者の特定に至ったそうです。
このように、多少の時間がかかったとしても、被疑者の特定に、形式的識別法と実体的識別法とのダブルチェックがなされています。
これだけ大きな事件で慎重を期すという意味では、例え身分証を所持していたとしても、別人やなりすましの可能性を排除しきれず、警察としても直ぐに結果が分かり、かつ実体的な個人の識別である、指紋法を採用したのではないでしょうか。
今回、指紋鑑識業務に携わる者として、改めて指紋鑑定の重要性を感じています。
○インターホンの指紋から犯人逮捕
事件が起こったのは9月26日の午前11時頃。兵庫県姫路市の会社員男性の家に知らない男が侵入しました。
この男は会社員男性宅のインターホンを鳴らし、反応がなかったので家に侵入し、金品を盗もうと室内にあったカバンを物色していたところ、別室で寝ていた会社員男性に気付かれて声をかけられたそうです。
「何してんの」と声をかけられた男は何も取らずに逃げ出しましたが、インターホンに残っていた指紋から容疑が発覚し、逮捕されることとなりました。
起きて来て知らない人が家の中にいたら怖いですよね。
この犯人が指紋で誰か分かったということは、警察が指紋を所持していたということですので、もしかしたら前科などがあったのかもしれません。