筆跡の検査方法
では、人の書いた文字をどのような方法で判別しているのか。その検査方法は実に様々なものがあります。
以下に、5つの検査方法を紹介したいと思います。
《主な検査方法》
- 1.字画検査
- 2.筆圧検査
- 3.偽筆検査
- 4.筆順検査
- 5.配字検査
1.字画検査
字画検査とは、文字の一画一画の形や長さ、止まり、はらい、転折部分(画線が折れる所)の形などを細かく検査する方法です。また、文字の画線の細かな部分だけでなく、文字全体の検査も行います。例えば、文字の傾き、文字の姿(丸文字か角張る文字など)、震えの有無などがあります。
さらに、同じ文字を複数個を検査し、指摘した特徴が恒常的に出現しているかどうかも検査します。
■字画検査の定義
実のところ字画検査には明確な定義が決まっておらず、鑑定人の経験則にゆだねられており、鑑定人によって結果にばらつきが出てしまっているのが現状です。
そのため、当社独自の定義を決めて鑑定を行っております。
まず、教科書等を使って同じ見本や、書き順で覚える書法規範があります。もしも、これを間違って覚えている場合や、書きやすいように変化させて覚えている場合は、その部分が文字の個性・特徴となり、書いた人の識別が行えるようになります。これらの個性・特徴を比較することで、鑑定結果を導き出します。
また、画数が少ない字や単純な数字、ひらがな等は、異なる人物によって偶然に同じ特徴で書かれることもあるので、他の検査も併せて行っております。
■字画検査の手順
この検査をするには、鑑定文字と対照文字が必要となります。
鑑定文字とは、誰が書いたのか確認したい文字です。例えば、契約書にAさんのサインが書かれているが、本人はサインを書いた憶えがなく、自分が書いたかどうかを確認したい場合は、そのサインが鑑定文字となります。 次に、対照文字とは、鑑定文字を書いたと思われる人の文字をいいます。先ほどの例の場合、Aさんの普段の文字が対照文字となります。
これらの2種類の文字が揃ったら筆跡特徴を比較します。また、字画検査は個々の文字に現れる筆跡特徴を比較するため、検査に使用する鑑定文字と対照文字は同じ文字でないといけません。その比較手順は以下のとおりです。
《字画検査の比較手順》
- 1.鑑定文字から筆記個性が出ている箇所を指摘する
- 2.鑑定文字で指摘した箇所と同じ所を対照文字でも指摘する
- 3.それらの指摘した筆記個性を比較して一致しているかどうかを判断する
2.筆圧検査
筆圧検査とは、文字の中で力を入れる箇所や、力を抜く箇所を把握し、個人の識別をする方法です。例えば、「二」という漢字なら、人によっては、1画目よりも2画目の圧力を高くして書く場合もあれば、その逆もいます。また、入筆部(画線の始まる箇所)の圧力を高くして書く方もいます。
このような圧力の変化をとらえて、個人の識別をするのが、筆圧検査です。
■筆圧検査の手順
この検査も、字画検査と同じように鑑定文字と対照文字が必要です。はじめに、鑑定文字と対照文字の共通する文字から筆圧を抽出して、二つの文字を並べます。 そして、二つの文字の筆圧を比較して、同じであれば同一人物によって書かれたことになり、違っていれば別人によって書かれたことになります。
■定量ではなく定質
しかし、筆圧は、同じ人が書いても、立って書く場合と座って書く場合とで変わりますし、マジックで書く時とボールペンで書く時とでも圧力は変わります。 だから、同じ人が書いても、その時の条件の違いによって、筆圧に差が出るのではないか?と疑問があるかもしれません。
けれども、この筆圧検査では、文字が全体的に圧力が高いのかどうかではなく、文字のどこの圧力が高くて、どこが低いのかということが重要です。この法則性は、筆記環境が変わっても常に一定で表れてくるので、個人の識別が行えるという訳です。
重要なのは、量よりも質で検査することです。
3.偽筆検査
偽筆とは、他人が特定の人物の文字を真似て書いた文字を指します。他人によって真似て書かれた文字は、画線の細かな震え、筆継ぎ(二度書き)、筆の止まりなど不自然な形が文字に表れます。
また、文字全体を見ても、調和がとれていなかったり、筆跡特徴にばらつきが有るなどの現象が表れます。
このような不自然な箇所から、他人によって意図的に書かれた文字かどうかを識別するのが、偽筆検査です。
■偽筆検査の方法
契約書や遺言書に書かれた署名を、他人が真似て書いたのかどうかを確認するために、偽筆検査を行います。
他人によって真似て書かれた文字は、細かな画線の震え、筆継ぎ(二度書き)、筆の止まりなど不自然な形が文字に表れます。
また、文字全体を見ても、調和が取れていなかったり、筆跡特徴にばらつきが有るなどの現象が表れます。
このような不自然な箇所から、他人によって書かれた文字かどうかを識別するのが、偽筆検査です。
■偽筆を作成する方法
他人が誰かの文字を真似るには、以下の3つの方法があります。
《偽筆を作成する方法》
- 1.臨書
- 模倣したい人の文字をお手本として見ながら真似る方法
- 2.骨書
- 模倣したい人の文字をあらかじめ鉛筆などで薄く書いておいて、
後からそれをなぞって、下書きを消す方法 - 3.透写
- 模倣したい人の文字の上に紙を重ねて、書き写す方法
そもそも、偽筆というのは、「誰かの文字を真似て、手書きで紙などに書く」という限られた条件になりますので、ほとんどの場合は、上の表で紹介した3種類しかありません。
4.筆順検査
文字には必ず、書法規範により筆順が定められています。しかし、それを完璧に覚えている人は限りなく少なく、その人独自の書き順で書かれる文字があります。
例えば、「飛」という文字の規範を知らない場合は、人によって書き方がばらばらです。そこをとらえて、筆記者を特定する方法を筆順検査と言います。
■筆順検査の手順
筆順を比較するのにも、鑑定文字と対照文字に共通して書かれる文字が必要となります。
また、筆順検査で比較する文字は、「山」や「日」のようにだれが書いても同じ筆順になる文字ではなく、「書」や「田」のように筆順にばらつきのある文字を選定します。
■筆順の特定方法
では、筆順の特定方法を「十」の漢字を例にしてご説明します。
このように、繋がり線や画線の交差部分を検査し、筆順を特定します。
特定された筆順がすべて整合していれば、同じ人によって書かれた可能性が高くなり、逆に筆順の違う文字が多い場合は、別人によって書かれた可能性が高くなります。
5.配字検査
人は何気なく文字を書いていますが、無意識のうちに文字の大きさ、書く位置、文字の間隔などを判断しながら書いており、そのような部分を詳細に検査することで、筆記者の識別ができます。
例えば、名前の記入欄に対して、中央に書くのか、下側に書くのか、文字は大きいのか、小さいのかなどを検査します。このような方法を配字検査と呼んでいます。
■配字検査の条件
配字検査では、文字の大きさ・書かれている位置・文字の間隔・行や列の傾きなどを詳細に検査するため、いくつかの条件が必要です。
まずは、鑑定文字と対照文字に、名前や住所のように同じ文字が連続して書かれていないといけません。
また、記入欄に関しても、同じような条件でないと比較が行えません。
■比率を算出する
配字検査は、条件が揃わないと行えないので、記入欄の大きさまで同じ資料を揃えるのはなかなかに困難です。
例えば、記入欄が大きくなればなるほど、必然的に中に書かれる文字は大きくなります。そこで、記入欄に対してどの程度大きく書かれているかを算出し、その比率を比較することで同じ人によって書かれたかどうかを判断します。これで、記入欄の大きさが異なっても形式が同じであれば比較が行えます。
例えば、このように氏名を書く際も様々な条件があり、その条件が同じでないと、文字の間隔や位置などに変化が生じ、正しい比較が行えません。
そうして、比較した結果、文字の間隔や大きさが一致するかどうかで同じ人によって書かれたか否かを判断しています。