指紋鑑定から分かること

持ち主が分かる

 名前が書いてない物や広く流通している物は、一体誰のものなのかが見た目ではわかりません。しかし、持ち主であれば、そこに指紋がついているはずです。仮にそれが窃盗された物であっても、検出された指紋から持ち主を特定できます。

【事例:現金窃盗事件の解決方法】

 例えば、紙幣は流通しているものなので、それがたとえ窃盗をした紙幣でも、持っている人が正当な所有者であるという推定を受けてしまいます。だから、窃盗事件が発生して、容疑者が被害現金と同額を持っていても、本人が「自分の物だ」と言えば言い訳が成り立ってしまいます。

 ところが、容疑者が現金を窃盗したと証明する方法がひとつあるのです。

 それは、現金から指紋検出をして、被害者の指紋と照合することです。被害者の指紋と一致すれば、その現金は容疑者が被害者から窃取したことの証明になります。これは、現金に限ることなく、指紋検出ができる物なら何にでも使える方法です。

手の特徴が分かる

 人は、身体的特徴を多く持っており、残された指紋にも同じことが言えます。その具体例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 右手と左手、どちらの指紋の付着が多いか(利き手はどちらであるか)
  • 指が太いか、細いか
  • 指にしわがあるか、ないか
  • かすり傷、切り傷などの後天的特徴はないか
  • 似ている指紋はあるか(直系血族では類似紋様が多い)
  • 指紋が荒れているか(女性、料理人、理美容業など水、油関係従事者に多い)

 これらを頭において指紋をよく観察すると、手の特徴が見えてきます。これらの情報は、容疑者の絞り込みに活用できます。そのため、残された指紋は何指か、どんな形態をしているのか、というのは鑑定作業上とても大切なことなのです。

 また、利き手を推定することもできます。例えば、紙に文字を書くとき、右利きの人は、左手で紙を押さえますから左側に左手の指紋が残ります。 左利きの人は、これと逆になります。このように、指紋の位置と方向、左右別によって利き手を推定することができるのです。

人の行動が分かる

 指紋は、ご存知のように、長さと太さが異なる5本の指が並んでいます。 現場指紋もこの特徴にしたがってそのままの状態で採取され、その痕跡からいろいろな推定ができます。

【事例:指紋の分析】

 例えば、会社の重要書類が社内の何者かに、コピーをとられたかもしれない。早速、会社の従業員の指紋を紙に押捺してもらい、重要書類から検出された指紋と照合し、そこから触った人物を特定した。事情を聞いてみると、「書類をファイリングしただけで、中身を出してコピーをとった訳ではない」という話しであった。

 このような場合、書類が保管されていた部屋の中や書類から指紋を検出して、その指紋の形や付き方から、次のような事実を確認することができるのです。

  • 指紋は右手であるか、左手であるか、そのどの部分か
  • どんな姿勢のときについたのか
  • 力の入った方向はどっちか
  • 指紋がついた圧力はどのくらいか
  • 指の方向はどちらを向いているか

【分析結果の読み取り】

 これらの事実がわかったら、犯行の手口や人の動きを想像して、これらの現象をつき合わせていきます。 その時に重要なのが「自然さ」です。そんなに難しく考えることをせず、人間の自然な動きや物の持ち方を頭でシミュレーションしながら見ることです。 真実であるならば、必ず行動と現象の辻褄が自然と合うものです。

 その過程で無理な想像をしたり、違和感を感じる場合は、想像している事と真実が違っているのです。 その時は、もう一度はじめに戻って、観点を変えてシミュレーションを行うことが重要です。

言葉の信頼度が分かる

 事実を突き止める時に、人の話というものが重要な働きをします。しかし、その人が本当のことを言っているとは限りません。 まずは人の言葉を信じることから始まりますが、その内容によっては辻褄が合わなかったり、動きを想像すると矛盾があることも起こりえます。

【事例:供述と現場指紋の照合】

 例えば、組織の上下関係が絡んだ場合は、供述の全部が本当かどうか疑わしいケースがあります。 そんな中で、現場周辺から採取した指紋の付き方が、供述内容と整合しなければ、嘘をついていると言えます。こうして、何処にいた、何をしていたということが分かれば、現場から指紋を採取し、裏付けしてから真偽を確認できるのです。

人は嘘をつく、間違いを犯す、寝返る、ということを忘れないことも大切です。

犯人が分かる

 指紋の活用方法で一番代表的なのが、犯人の割り出しです。犯罪歴がある人は、指紋が警察にすべて保管されていますので、これをもとにして、現場から採取した指紋を過去の犯罪者の指紋と照らし合わせることができます。

【事例:指掌紋自動識別システム】

 今では、コンピュータが600万人以上もの膨大なデータベースから似ている指紋をピックアップしてくれます。 これを「指掌紋自動識別システム」といいます。これは、アメリカをはじめ全世界で活用されている優れものです。そして、データベースからピックアップされた指紋を鑑定官が直接目で見て判断をしています。つまり、あくまで指掌紋自動識別システムは検索エンジンみたいなもので、最終的に照合しているのは人なのです。

【事例:データベースに指紋がない場合】

 では、犯人の指紋が採取されているが、データベースからピックアップされる指紋がない時は一体どうするのでしょうか。 この場合は、容疑者として浮上してきた人の指紋を入手して照合するのです。 指紋を入手する方法は二つあります。

 一つは、容疑者が触ったコップや紙などから検出した指紋と照合する方法です。これを秘匿採取と言います。この方法は、指紋を確保することはできますが、それが部分的な指紋だったり、擦れている場合が多く、照合が困難です。

 もう一つは、直接本人の承諾を得て指紋を提供してもらう方法があります。この方法は、鮮明な指紋が入手できますが、本人の承諾がないと採取ができません。

身元が分かる

 指紋は、個人を特定できる効果を持っているので、正体が分からない人の身元を確認することに使われます。

【事例:大規模事故での身元確認】

 例えば、飛行機の墜落事故、列車事故、ホテル火災、自然災害など不特定多数の人が絡む事件・事故では、被害者を特定するために身元確認は欠かせないものです。そのため、遺体から必ず指紋を採り、そこから身元の確認をします。 なので、大規模事件・災害対策本部では、必ず指紋採取班と鑑定班が配置されます。

 過去の事例から見ると、衣服や外形だけで判断すると、中には遺体の取り違いというのが往々にしてあるのです。 さらに、遺体損傷がひどい場合は、特に判断を間違えやすいため、確実に識別ができる指紋が役に立ちます。

【事例:在宅指紋との照合】

 また、遺体から指紋を採っても、警察で保管している指紋に一致せず、誰かわからない場合は、それらしき該当者が出てくれば、本人の在宅指紋(自宅などにある生前手にしていた物件から採取した指紋)と照合します。

 特に、海外旅行をするときは、旅行先で不慮の事故があった場合でも、身元が確認できるため、自宅に家族全員の指紋を保存しておけば役に立ちます。

犯人ではないことの証明ができる

 事件が発生して、自分に疑いがかけられた場合、現場に残された指紋と自分の指紋を照合して一致しなければ、犯行を犯していないことの証明になります。 このように、むやみに疑われた時に、それを解消するのに役立ちます。

人を制御することができる

 犯人として警察に逮捕されると指紋と顔写真をとられますが、これは、「次の犯罪を犯すと、すぐにわかってしまうから、もうするのではないぞ」という予防の意味もあります。

【事例:協力者指紋】

 また、事案の証拠物件からは犯人の指紋以外にも被害者やその関係者(犯人・被害者以外の者)の指紋も検出されます。これを絞り込むために、関係者に協力してもらい、指紋を提供してもらいます。 これを「協力者指紋」といいます。 しかし、このような場合、「指紋をとられたら、へたに悪いことはできないな」という気持ちになります。

 何か悪い事をしたら、指紋ですぐにバレてしまいますが、 悪い事さえしなければ問題ありません。

書類の真偽が分かる

 自分の名前の下に、印鑑の変わりに指紋を押捺する場合があり、いわゆる「拇印」と呼ばれるものです。専門的には「名下指紋(めいかしもん)」と言います。 しかし、指紋には名前が書いてありませんから、その指紋が誰のものか分からない時には、鑑定する必要があります。

 例えば、遺言書に印鑑ではなく拇印があるときは、これの真偽が争われる時があります。 この場合は、遺言者が生前に使用していた物から指紋を入手して照合すれば、すぐに真実がわかります。

【事例:偽造の見破り】

 交通違反で捕まったときに、他人の名前を使って自分の指紋を押印する者がいます。 いわゆる偽名詐称というものですが、これは立派な犯罪であり、事件名としては有印私文書偽造同行使罪です。 この場合も、交通切符の指紋と容疑者の指紋を照合すればすぐにわかってしまいます。