指紋の基礎知識
指紋とは
そもそも指紋とは人の手の末節部(指先)の紋様を指しています。
これは細かい話なのですが、指先以外の関節部分は「指紋」とは呼びません。
指先以外の部位にもちゃんと名前がついていて、指紋と同じく人を識別できる役割も果たしてくれます。
それらの名前と部位をまとめた図は、以下のとおりです。
「終生不変」であり「万人不同」である
指先に細く浮き上がった線(指紋線)によってできる紋様、もしくは指紋線の紋様が物体の表面に付着した跡のことを「指紋」と呼んでいます。
指紋は胎児がお腹の中にいる時に作られ、指紋線が作り出す紋様は人それぞれ異なり、一生変わることはありません。
これを「終生不変」と言っています。
また、二つとして同じものは存在しないという意味の、「万人不同」としても知られています。
指紋の役割
指紋線があることで、触れた物体と皮膚の間に摩擦が発生し、滑らずに指先で物をつかんだり持ち上げたりすることができます。
また、触れた物の重さ、冷たさ、材質などを瞬時に脳に伝達するセンサーのような役割を果たしています。
皮膚にはいくつもの汗腺があり、常に微量の汗が出ています。その影響により指先や手が触れた物体に指紋の痕跡がつきます。
人の身体の毛が生えている部分(顔・首・腕・足など)から出る汗に微量の脂肪分が含まれていますが、掌や足の裏から出る汗には油分が含まれていません。
ただ、人は本能的に手で身体を触り異変がないかを確認しており、いつの間にか指先に脂肪分が付着していて、その油分が保存剤の役割を果たしているため、指先や手で触れた物体には、指紋がくっきりといつまでも残っているのです。
指紋の成り立ち
人間の指紋は、いつ、形作られるのでしょうか?
それは、お腹の中にいるときに作られるのです。
妊娠した直後の小さな卵子は、細胞分裂を繰り返して、少しずつ人の形になっていきます。妊娠初期の段階で手足ができ始めますが、初めはまだ指は無く、マッチ棒のような突起があるだけの状態です。それから徐々に指が形成されていき、妊娠9週目あたりには指の1本1本が分かれて、指紋のようなものができ始めます。
妊娠9週目というと、お腹の赤ちゃんの大きさは3cm前後でまだとても小さいのですが、指や指紋は始めの方にできてきます。
その後、どんどん指も長くなり、赤ちゃんらしい体つきに成長していきます。そして、妊娠5か月ごろ(16週目あたり)、お腹の赤ちゃんはまだ17cm前後ですが、指の指紋が判別できるようにまでなります。
指紋の歴史
歴史年表
世界の流れ | 日本の流れ | |
1684年 | イギリスで「植物解剖学の父」と呼ばれるネヘミア・グルー博士とオランダの学者ゴバルト・ビドロー氏、イタリアの解剖学者、生理学者として有名なマルチェロ・マルピーギ博士によって指と手のひらの溝構造に関する論文発表や本の出版が行われた。 | 【江戸時代5代将軍徳川綱吉】 江戸幕府大老・堀田正俊が江戸城内で暗殺。 |
1788年 | ドイツの解剖学者ヨハン・マイヤー氏によって指紋が個人の識別に有効と発表。 | 【江戸時代11代将軍徳川家斉】 天明の大火により京都の大半が焼失 |
1823年 | ドイツの解剖学者ヤン・プルキニェ氏が触覚に関する論文の中で初めて指紋の分類をおこない、その後の指紋研究者の指針となる。 | 【江戸時代11代将軍徳川家斉】 勝海舟誕生 |
1853年 | ドイツのゲオルク・フォン・マイスナー氏によって指紋と摩擦の関係について研究が行われた。 | 【江戸時代13代将軍徳川家定】 ペリーら浦賀へ来航(黒船来航) |
1880年 | インドの官吏ウィリアム・ジェームス・ハーシェル氏がインド総督府に在籍中に世界で初めて指紋の採取を行った。イギリス人のヘンリー・フォールズ氏がイギリスの科学雑誌ネイチャーに、指紋に関する研究論文を発表。 | 【明治時代】 君が代曲譜制定 |
1892年 | フランシス・ゴルトンが指紋の分析と識別に関する詳細な統計モデルを公表 | 【明治時代】 第2次伊藤内閣成立 |
1897年 | インドで初めて指紋を扱う部局が設置され、指紋が犯罪記録の管理に用いられた。 | 【明治時代】 日本勧業銀行(後のみずほ銀行)創立 |
1901年 | 犯罪記録の管理制度がスコットランドヤードにも持ち込まれ、イングランドとウェールズで指紋を用いた犯罪捜査が始まった。 | 【明治時代】 田中正造が足尾銅山鉱毒事件について明治天皇に直訴 |
この年代から日本の指紋の歴史が始まりました。 | ||
1903年 | 【明治時代】 ドイツの警視総監ロッシェル博士が考案した指紋の分類方式が世界の主流となり、その方式が日本に伝わる。 | |
1906年 | 【明治時代】 司法省官僚平沼騏一郎氏が英国で指紋法を学び、監獄の在監者の指紋を採取し、収集整理。 | |
1911年 | 【明治時代】 警視庁が指紋制度を採用 |
指紋の種類
4種の指紋
指紋には大まかに、渦状紋・蹄状紋・弓状紋・変体紋の4種類があり、指紋は必ずこの4種類の中のどれかの形をしています。
それぞれの指紋をクリックするとさらに詳細な形状ごとの説明をご覧いただけます。
渦状紋
類環状紋
類環状紋とは、中心の円が縦に長い指紋を言います。
純環状紋
純環状紋とは、中心の線が円になっている指紋を言います。
左うず巻環状紋
左うず巻環状紋とは、指紋線の全体が左巻に流れている指紋を言います。
右うず巻環状紋
右うず巻環状紋とは、指紋線の全体が右巻に流れている指紋を言います。
左咬合渦状紋
左咬合渦状紋とは、右下からの流れと左上からの流れが中心で咬み合わせるような模様を言います。
右咬合渦状紋
右咬合渦状紋とは、左下からの流れと右上からの流れが中心で咬み合わせるような模様を言います。
左一連分離紋
左一連分離紋とは、咬合渦状紋よりも大きい流れであり、それぞれの流れの頂点がUターンした形状になっています。
右一連分離紋
右一連分離紋とは、左一連分離紋と逆の模様を言います。
異種混合紋
異種混合紋とは、2種類の模様が混ざっている模様を言います。この写真の場合は、渦状紋と蹄状紋が混ざっています。
蹄状紋
左流蹄状紋
左流蹄状紋とは、馬蹄形が左側に流れる模様を言います。
右流蹄状紋
右流蹄状紋とは、左の指紋と逆の模様を言います。
左流閉塞蹄状紋
左流閉塞蹄状紋とは、馬蹄形が閉塞している模様を言います。
右流閉塞蹄状紋
右流閉塞蹄状紋とは、左流閉塞蹄状紋と逆の模様を言います。
弓状紋
有中心弓状紋
有中心弓状紋とは、指紋の中心に三角州がある紋様を言います。
無中心弓状紋
無中心弓状紋とは、全ての線が横に流れ、中心の三角州がない模様を言います。
左偏流弓状紋
左偏流弓状紋とは、中心より左側が広く、右側が閉塞的な流れの弓状紋を言います。
右偏流弓状紋
右偏流弓状紋とは、左偏流弓状紋と逆の模様を言います。
突起弓状紋
突起弓状紋とは、中心の三角州の頂点が高い模様を言います。
変体紋
一人の人が2種類持っている場合も
いかがでしたでしょうか?
指紋にこれほど多くの種類があるのか、と驚かれた方がいらっしゃるのではないでしょうか?
でも、考えてみると世界に約60億人の人口がいて、みんな違う指紋を持っているので、これだけ多くの種類があって不思議ではないですね。
ちなみに、上の図の変体紋は、突然変異によって生まれた紋様を言い、非常に数が少ないです。
弊社でも数多くの指紋を取り扱っておりますが、現物は誰も見たことがなく、文献でしか見たことがありません。そのため、上記の図で変体紋だけは手書きなのです。
また、指紋の模様の面白いところは、血液型と違って、一人の人が2種類持っている場合があるところです。
さあ、皆様の10本の指は、どの種類なのでしょう?是非一度、確かめてみてはいかがでしょうか?
指紋の4大原則
(1) 万人不同の原則
指紋は一人一人違っていて、世界中のどこを探しても同じ指紋が存在しません。
この性質はとても有名ですね。これの正式な名称は「万人不同の原則」と言います。
また、一人の人は左右合わせて10本の指を持っていますが、そのすべてが違う指紋なのです。
(2) 終生不変の原則
人は、生まれもった指紋が一生変わることはありません。 でも、子供から大人へと成長すると共に指が大きくなり、その影響で指紋の大きさは変わりますが、そのまま大きくなるので、指紋の模様自体が変わるわけではないのです。これを「終生不変の原則」と言います。
(3) 均一走行の原則
指紋を見てみると、キレイな模様に見えませんか?それは、指紋線の間隔が常に等しくなっているからです。
線と線の間隔が著しくバラバラだったり、指紋線が急激に細くなったり太くなったりする指紋は存在しません。
これを「均一走行の原則」と言っています。また、この名称は弊社が命名して使用しているオリジナルの言葉です。
(4) 原型再生の原則
指の皮がむけてしまった場合、しばらくすると再生しますが、実は指紋も、表皮(皮膚の表面)がはがれたり、磨耗したりしても、同じ紋様が自然に再生します。
これを「原型再生の原則」と言っています。しかし、深い傷がつけられたり、やけどなどで破壊されると、自然に回復することが不可能となります。
この「原型再生の法則」も、当社が命名したオリジナルな言葉です。
どのくらいの期間、指紋は残っているか?
物に付着した指紋は、はたしていつまで残っているか?について解説してまいりますが、その前に、そもそもなぜ指紋が検出できるのかを説明しましょう。指が物に触れたとき、微量の汗がその物に付着します。汗に反応する薬品を使って指紋を見えるようにすることによって、指紋が確保できるのです。
そして、指紋がいつまで残っているかは、触った物によって違ってきます。
例えば、ガラス、鉄、ビニール、プラスチックなどは、屋内で保管されている場合、2~3ヶ月は残っていることがあります。
しかし、2~3ヶ月以上が経過してしまうと、汗の水分が乾燥したり、油分が酸化してしまい、指紋が消滅します。
また、コピー用紙、新聞紙などの紙類は約10年もの間は残っていることがあります。このような紙類の場合、汗の成分が染み込んでいることにより、残りやすくなるのです。
しかし、約5年が経ち、紙の黄ばみ、カビ、紫外線による色あせなどが起きると、指紋は消滅してしまいます。