※音が出るのでご注意ください
【1.父の死去】
ある日、農業を営んでいた一人の男性が高齢のため亡くなられました。この男性はすでに奥様を亡くされており、残されたのは長男、長女、次男の三人のご兄弟でした。
この男性は高齢ながらも農業を続けていましたが、実際には長男が家業を引き継ぎ中心となって働いていました。
一方で、長女と次男は結婚を機に実家を離れ、それぞれ遠方で新しい生活を送っていました。
【2.遺言書の内容】
葬儀が無事に終わり、しばらくしてから相続の話が持ち上がりました。その際、長男が「父の部屋から見つかった」と言いながら遺言書を取り出しました。その内容は、「父の遺産をすべて長男に相続させる」というものでした。
長女と次男は、長男が家業を継いでいることから、ある程度多く相続するだろうとは予想していました。
しかし、「すべて」という内容には驚きを隠せませんでした。そんな中、次男が「この遺言書は兄(長男)の字に似ている気がする」と疑問を口にしました。
これに対し、長男は「自分は書いていない」と否定しましたが、一度芽生えた疑念は簡単には消えませんでした。そこで兄弟たちは筆跡鑑定を依頼し、真実を明らかにすることにしました。
※写真はイメージです
【3.鑑定依頼】
私たちのもとに筆跡鑑定のご依頼が届いたのは、このような経緯からでした。鑑定には問題となっている遺言書と、お父様が生前に書かれた文字資料をご提供いただきました。また参考資料として、長男の日常的な文字もお預かりしました。
一見したところ、お父様の文字と長男の文字には確かに似ている部分がありました。
しかし、それだけでは判断できません。詳細な分析を進めることで真実を明らかにしていきます。
【4.鑑定開始】
早速、鑑定を開始しました。まず、遺言書から特徴的な書き方をする箇所を抽出し、それらをお父様の文字と比較しました。
その結果、多くの共通点が確認されました。また文字の大きさや間隔など数値的に比較してみても、やはり遺言書とお父様の筆跡は同じように書かれていました。
さらに念のため、遺言書と長男の文字も比較しました。確かに似ている部分もありましたが、それ以上に異なる点が多く見つかりました。特に文字サイズや間隔については明確な違いがありました。
これらの結果から、「遺言書はお父様ご本人によって書かれたもの」と結論づけることができました。
しかし、なぜ遺言書と長男の文字は似ているところがあったのか。これは、科学的でなく、あくまで我々の経験則ですが、同居をしている親子は文字が似る傾向があります。
今回もそのような習性があったのではないかと思います。
【5.結果報告】
鑑定結果をご報告したところ、ご兄弟全員が納得してくださいました。そして長女と次男も「お父さんの意思ならば」と受け入れ、話し合いは円満にまとまりました。
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