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指紋鑑定と冤罪

〇コンビニ強盗冤罪事件

少し前、NHKのドキュメンタリー番組で無実の罪で逮捕された男性のことが特集されました。ご覧になった方もいるかもしれません。

事の発端は、大阪府のコンビニでレインコートを着た男がレジから1万円を奪って逃走した事件。事件から2か月後、近くに住むこの男性が窃盗容疑で逮捕されました。

 

この男性は、10代のころ少し素行が悪かったため警察で指紋を採取されたことがあったのですが、コンビニの自動ドアから検出された指紋とその時の指紋が一致したことが逮捕の決め手となったそうです。

 

恐喝に近いような取り調べが何日も続き、心身ともにボロボロになっていった男性は嘘でも自白したほうが楽になれると思うほどに追い詰められていきました。

そんな男性を支えてくれたのは家族の存在。

男性の無実を信じ、独自に調査していった結果、コンビニのドアの指紋は事件の数日前にコンビニに行ったときについた指紋であり、さらに犯人が残した指紋とは逆の手でついた指紋であることや採取された指紋の位置が全く違うことが分かりました。

 

これにより男性は無罪が言い渡され解放されましたが、職や夢、拘留された時間などたくさんのものが失われたのです。

 

○埼玉県窃盗事件

埼玉県のオフィスで窃盗事件が発生し、警察は現場から指紋を採取して、前科者指紋と照合したところ、ある少年に一致ししたため、逮捕した。

 

ところが、当社が再鑑定したところ、その指紋の鑑定結果が間違っており、犯行現場の指紋と少年の指紋は一致していなかった。少年は、何度も指紋鑑定がおかしいのではないかと申し出たが、取調官、検察官は誰一人として少年の言うことに耳を貸さず、指紋再鑑定が行われる事はなかった。

 

○名古屋市の窃盗否認事件

愛知県の民家で窃盗事件が発生し、事件現場で指紋採取活動を行ったところ、現金が盗まれた鏡台の引き出しの外側から指紋が見つかり、前科者と照合したところ、愛知県に住むAさんと一致し、逮捕された。

 

ところが、Aさんはエアコン設置の仕事をしており、3年前に被害者方の鏡台を動かしていたことが取り調べでわかった。また、Aさんは、現場指紋はエアコン設置工事の時に油粘土のようなパテを使っていたので指紋が今まで残っていたのではないかと検察官に主張したが、起訴されてしまった。

 

公判になり、この事件に疑問をもっていたテレビ局から当社に依頼がきて、現場指紋を鑑定してみると、なんと、鏡台の指紋は約3㎏の強さで押したとき付着したものと判明した。まさに、現場指紋は工事の時に鏡台を動かした際に付着した状況を現していた。

 

○無罪事件の共通点

共通点は、逮捕された方が自分の無実の可能性を主張し、再捜査を訴えても警察では再捜査をしてくれなった。これは、逮捕されたやつは犯人に間違いないという先入観があるために再捜査をしなかったと思われる。

 

○証拠開示とチェック&バランス

現在の刑事訴訟法は、容疑者の有罪証拠のみを送致する方式であるため、無罪につながる証拠があっても、その存在そのものがわからないのが実態です。

 

かつて警察鑑定に従事していたので、捜査の流れを逐一承知するとこの実態がわかります。

したがって、これを防止するためには、捜査活動の手続きの流れを客観的に確認する必要があります。

 

○証拠開示

特に、犯罪現場の証拠資料は、有罪、無罪は関係なく、あらゆる証拠が採取されていますから、採証活動の証拠リストが必ずあるはずです。これの開示を求めることが非常に重要です。

また、警察は裁判官、弁護側に再鑑定ができるような資料の保全と有罪証拠以外の資料の保管も義務化されています。そのため、証拠物は破棄されず、残っているので、開示請求をすれば提出してくれる可能性が高いです。

 

○だれもが平等に証拠を見られるシステム

次に、資料保管にあたっては、真相解明のため、事件によっては第三者機関が一手に管理し、捜査機関、弁護側双方が同時に閲覧できるシステムを作ることも選択肢の一つです。諸外国の証拠開示は、冤罪実例に敏感に反応してこのシステムが既に実施されているところです。したがって、捜査機関、弁護士がそれぞれ平等に閲覧できるよう、証拠開示によってチェックアンドバランス(牽制と均衡)を図る必要があると考えます。

 

○指紋鑑定がない時代の犯人の見つけ方は?

指紋鑑定が普及する以前、どうやって犯人をみつけていたのか気になったことはありませんか?

今みたいな科学捜査ができなかった時代、未解決事件や冤罪事件も多くありました。

 

19世紀のフランス、人類学者である‘アルフォンス・ベルティヨン’は人体測定の研究を行い、初めて科学的な犯罪者識別法を考え出しました。その名も「ベルティヨン式人体測定法」。

その方法は前腕や指・耳の長さ、脚のサイズ、身長、座高といった11ヵ所について測定を行い、その測定データを組み合わせることによりそれぞれ大中小の3種類に分けて個人を区分するものでした。

 

この方法は有効性が認められ、世界各国の警察で採用されるようになりますが、指紋鑑定が導入されるようになると徐々にその役目を終えることとなりました。

科学捜査の基礎を作ったベルティヨン、すごいですね。こういった研究を足掛かりに現代のような精度の高い鑑識が実施できるようになったのですね。